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 二人だけの渚


    「早く来るさ!!」
   波打ち際で天化が手を振っている。
   眩しいほどの笑顔をこちらに向けて。

   今日は修行が休み。しばしの休息。
   どこか行きたい所はないかと思案していたら、昔天化がぽつりと呟いた一言を思い出す。
   「俺っち、海って言ったことないんさ。一度行ってみたいさ〜。」
   ふと思い出したその言葉に、海に行かないかと誘ってみる。
   天化は思いがけない言葉を聞いたかのように、目を見開き、次の瞬間にっこりと笑った。

   「おれっち、海見るのはじめてさ〜!!」
   と着くや否や一声叫んだかと思うと、ジャケットを不意に脱ぎ捨てる。
   いつもとは一枚しか違わないはずのその姿に、思わず視線を外してしまう。
   少年らしい均整のとれた体つきが、目に焼き付いてしまった。
   落としていったジャケットを拾い上げ、視線を海に戻すと、ジーンズの裾が濡れるのも
   気にしない、といった風でじゃぶじゃぶと波打ち際で波を追っている。
   濡れるよ、と声を掛けるとこちらをちらりと見、口元にいたずらっ子のような笑みを浮かべて
   そして、海の中へとダイブした。

   「てん・・・・。」
   あわてて海へと駆け寄ると、ざばっと海から顔を出した。
   「しょっぱいさ〜。」
   濡れた髪を額に張り付かせ、子供のような顔で舌を出す。
   しょっぱいなんてあたりまえ、海だもの。
   「はじめてだって、いったっしょ?」
   馬鹿にされたとでも思ったのか、ついと横を向くと、いきなりまた海の中へ潜ってしまった。
   ところがしばらくしても、天化は浮き上がってこない。
   あわてて服の裾が濡れるのも忘れて、海に足を踏み入れる。
   時折大きな波が来て、足元を湿らせていく。
   と、大きなしぶきを上げて、天化が海から顔を出した。

   「そんなとこいないで入ってくればいいっしょ。」
   泳ぐつもりで来たのではない、と首を振る。
   天化が海が見たいといったから。天化が行きたいと言っていたから。
   じゃぶじゃぶと音を立てて海から天化が上がってくる。
   「気は済んだ?」
   声を掛けると、にっこりと笑い、手を出す。
   「海の中で、見つけた。」
   手のひらを開けると、小さな貝が白く綺麗に光っていた。
   「こーゆーの、川で泳いだ時にはなかったさね。」
   めずらしそうに、光にかざした後、そのまま手のひらへと乗せてくれる。
   「連れてきてくれた、礼。」
   照れくさそうに笑う天化に、微笑み返す。

   「、海、連れてきてくれて、ほんとありがとさ。
   俺っち大好きな人と海に来るのあこがれだったさ。ありがと。
   
   それだけいうと、照れくさそうに後ろを向いて、波打ち際を波に沿って歩いていく。
   あわてて天化の後を追い、隣に並ぶ。
   すると、天化は、そっと手を握ってきた。

   明日からはまた修行の日々が続くけれど、今だけは、この時が続いて欲しいと
   願わずにはいられない。
   この渚には二人だけなのだから。




  天化デート編。夏なので海!そして海デートはなんとなく天化ちゃんでしょう(笑)
  でも服を着たまま泳いではいけません。


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