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 贈る言葉


    最近、天化の様子が変。
   小さい頃から、面倒見てきたって言うのに、なんでそうなのかわからないなんて。
   いつもなら、お父さんの武成王様と、剣のお稽古ばかりして、
   相手をしてくれないのに。
   「女の子と遊んでちゃ強い剣士になれないさ。」なんて言ってたくせに、
   「 、ちょっといいさ?」
   なんて言って、隣に座る。
   座るのはいいけど、何にも話をしないで。
   あいかわらず、ぼーっとしたまま。こんなの天化じゃない。
   「どうしたっていうの?何だか変よ?」
   問い掛けても「うん。」って頷くだけ。

   しばらく、一緒に座ってたけど、何も言ってくれない。
   「天化、私、忙しいの。小母様にお料理を教わる約束だし。」
   天化のお母様は、それはもう、お料理上手で、良妻賢母の鑑のような人だ。
   私も、いつかそうなれたら、なんて考えたりして。
   武成王様のように強くて素敵な旦那様がいたら、それはもう、夢のよう。
   もちろん、こんな隣で腑抜けた顔した、年下の男の子なんか、目じゃないんだから。
   そんなこと考えてたら、不意に天化が声を出した。
   「 は、忙しいさ?」
   なんだか思いつめた声。
   「あたりまえでしょ!そんなぼーっとしてたら、あっというまに、おじいちゃんに
    なっちゃうよ!!」
   いつもの天化に戻るかと、渇を入れてみる。
   すると、天化はくすり、と笑ってこう言った。
   「ならないさ。・・・なれないかもしれないさ。」

   「天化?」
   思いつめたような口調に、思わず顔を覗き込む。
   「この前、仙人界からスカウトがきたさ。」
   そのことは前に小母様に聞いた。仙人界から人が来たって。
   でも、天化が行くって、聞いてない。そんなこと聞いてない。
   天化の家の使用人の人が噂してた、その迎えに来た仙人さんっていうのは、
   ちょっと変わった人で、「あれが、仙人さんかねえ。」なんて言われてた。
   見てない人の事、悪く言うのは嫌いだけど、きっとあんまりいい人じゃない。
   だって、天化を連れてっちゃうっていうんだもの。いい人なわけないじゃない。
   「行くの?」
   天化は、またぼーっとして考えてるみたい。
   そっか、ずっとそのこと考えてたんだ。

   「だって、変な人なんでしょ?お迎えに来た人。そんな人の所に行って、
    修行して、仙人になれるわけないじゃない。」
   そう言ったら、天化、またくすり、と笑って。
   「でも、あの人、強いさ。」
   なんて言うから、見た事無い人だけど、なんだか、すごく嫉妬した。
   「あの警備の厳しい武成王府に、夜中に誰にも気づかせずに、奥の間まで
    入ってきたんだ。警備を一声も上げさせずに、倒して。」
   天化が、目をキラキラ輝かせて言う。
   彼にとって「強い人」っていうのは今までお父さんだけだったから。
   はじめて見た他の強い人に惹かれてる、それがわかったから。
   止めることは、出来ない。

   「俺っちは、強くなる。誰よりも強くなる。ここにいたら、いつまでも同じだ。
    他の世界も、もっと見て、他の強い人たちと戦って。
    そのためには、やっぱり、仙人界に行こうと思うさ。」
   真っ直ぐな目で、未来を語る天化が、なんだか眩しかった。
   いままで、ちっちゃくて、弟みたいだったのに。そんな天化が男らしく見えて。
   「そんなに強くなりたいんだ。」
   なんだか、ちょっとだけ、寂しい。
   「うん。俺っちは、誰よりも強くなる。それが、俺っちの夢。
   の夢ってなにさ?」
   いきなりふられて、驚いた。さっき考えてた事、天化のお父さんみたいな強い素敵な人の
   お嫁さんになりたい、なんて、子供っぽいような気がした。
   でも、それ以上に、なんだかそれを口に出してはいけない気がした。
   だって、さっき、腑抜けた男の子なんて、思ってた天化が、カッコよく見えたんだもの。
   それこそ武成王様よりも、もっと。

   黙ったままの私を見て、天化はそれ以上の事を聞かなかった。
   「最後にと話が出来てよかったさ。俺っち、ホントはと遊ぶの好きだったさ。」
   ぱんぱん、とお尻のホコリを払いながら、天化は立ち上がった。
   「もう、行くの?」
   天化は振り返りながら、にっこりと、笑って、そこから歩き始めた。
   「
   最後の言葉は、天化に聞こえただろうか。
   もし、もう一度、会えるなら、その時はちゃんと言おう。
   「私の夢は誰よりも強い人のお嫁さんになることよ。」って。
   そのとき、一番強い人が誰だかわからないけどね。
   でもきっとその時には、今の武成王様よりも、強くなった男の子がいるんじゃないかな。
   そんなことを考えながら、天化の消えた道を一人歩き出す。
   私の夢に一歩近づくために。




  天化と幼馴染の女の子との「天化の旅立ち」編でした。
  見えないところで、こういう話もあってもいいかな〜、と。
  ところでそんなに変な人なのか、コーチ(笑)


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