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 天使の囁き


   「いーい、。ちゃんと聞いてる?」
   いきなり、顔を前に突き出されて、あわてて、仰け反る。
   たまに二人で出かけようと誘ったはいいものの、話す言葉も途切れてしまい、
   途方にくれたあげく、言ったのだ。物理学を教えてくれ、などと。
   それが本心からではないことに気づいていたにしろ、彼は丁寧に説明してくれた。
   彼と一緒にいると、穏やかな気持ちになれる。
   争いも、なにもかも忘れてしまえる時間をくれる。
   何度も何度も丁寧に、彼は言葉を繰り返す。
   だけれども、彼の説明をいまいち理解していない自分に、気がついてしまったようだ。
   少しだけ、溜息をついて。
   ああ、そんな顔をさせたいわけではないのに。
   もう少し、声を聞いていたいだけなのに。
   彼はけぶるような微笑を浮かべると、いきなり宝貝を取り出した。
   普賢の気性は知っているだけに、ほんの少し後ずさりする。
   「には、体で教えなきゃ、ダメみたいだね。」
   にっこりと微笑む顔は天使なのに、やることがどうも違って見えるのは気のせいだろうか。
   ヴンッ、と音がして、思わず目を瞑ってしまっていた。
   だが、ヒヤリとした冷たいものが頬に触れ、思わず目を開けた。

   「雪?」
   ひらひらと空から落ちてくる、ひとひらの雪を、その手に乗せる。
   雪は熱を帯びた手のひらで、音もなく消えた。
   「そう、雪。雪って言うのはね、雲の中の水蒸気が、凍結して空から降ってくるんだ。」
   あとからあとから降ってくる雪を捕まえようと、手のひらを広げる。
   手のひらには残らない、冷たい雪。
   「雪の結晶ってね、同じ形のものが一つもないんだよ。」
   彼の言葉を確かめようにも、その雪を捕まえる事は出来ない。
   儚く消える、その雪は、まるで隣にいる人のようで。
   思わず存在を確かめるように、隣を振り返る。
   「どうしたの?。」
   微笑む彼に、どぎまぎとしてしまう。
   なんでもない、と言いつつも、その手に触れてみたくてしかたがない。
   その存在を確かめるために。

   「何?」
   にこやかに笑う彼に、思わず伸ばした手を引っ込める。
   「こんなに綺麗なモノが、空から降ってくるなんて、不思議・・・。」
   照れ隠しをするように、手を空に広げて、上を見上げる。
   はらはら舞う雪は、降らせている人の思うが侭に、後から後から落ちてくる。
   「もっと綺麗なもの、見せてあげる。」
   彼はいたずらっ子のような顔で微笑むと、ヴンッとまた宝貝を作動させた。

   さっきまでの雪は消え去り、また元の青空が見えた。
   だが、辺りが急に寒くなった。まだ先ほどの雪が降っている時のほうが暖かいくらいに。
   「いいかい、よく見て。」
   見ると、空の青さに混ざって、光の粒がキラキラと光っている。
   声も出ないほどの幻想的な美しさに、しばし見惚れる。
   「これがね、ダイヤモンドダスト。雪は雲の中の水蒸気が凍って出来るんだけど、
    これは空気中の水蒸気が凍ると出来る。
    普通は空気が凍るなんてあんまりないんだけど、ものすごく寒い地域では、
    よく見られる現象なんだ。」
   ぱしぱしと、瞼を瞑ろうとして、睫が凍り付いている事に気がついた。

   「ダイヤモンドダストにはね、綺麗な別名があるんだ。」
   「何?」
   さすがに寒くて、両腕を掻き抱く。
   彼は、そっと自分に近づいてきた。
   「それはね、『天使の囁き』っていうんだよ。」
   そういいながら、そっと手を握ってくる。
   自分も、その手を握り返す。温かなぬくもりが伝わってくる。
   「
   そう呟く彼の声は、まさに天使の囁き。
   寒いはずなのに、その手の手のぬくもりだけで、心までが暖かくなった。
   




  ドリーム小説普賢編。ダイヤモンドダストは「寒い」でなく「痛い」です。
  本当です。(実証済み)


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