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 夏祭り


   「っ!!早く!早く!!いい場所なくなっちゃうさ!!」
   浴衣の裾をひらひらとさせながら、駆けて行く青年が、一人。
   はぐれないように、その背中を目で追いつづける。
   少年らしい細い肩。すらりとした背中が、目に眩しい。
   見とれていたら、背中が急に振り向いた。
   正確にいうと、天化が振り向いた、だけれど。
   「っ!!何してるさ!!追いてっちゃうぞ!」
   そんなにあわてないでも、花火は逃げたりしない、と思ったけれど、
   口には出さずに、天化に向かって手招きする。

   「あ!!チョコバナナ!!」
   食べたい、って言ってたのを、天化が先に進む間に見つけた店の前。
   天化があわてて戻ってくるのを待ちながら、チョコバナナをひとつ、買う。
   「はい。」
   キラキラと眩しい目で見つめてくる道徳に、チョコバナナの刺さった串を
   渡す。
   屋台の親父さんに一番チョコの沢山ついているやつ、っていったのは内緒。
   意外と天化、甘いもの好きだからね。
   「あれ?1本?」
   そんなの好きなのは天化だけだよ。
   笑いながら渡すと、とびきりの笑顔で「ありがとうさ」って言われた。
   どういたしまして。この顔を見るためなら安いものです。

   「は食べたいものないさ?お礼になんでも奢るよ!!
   わたあめ?あんずあめ?大判焼き?あ!東京ケーキ!!」
   甘いものばかり。
   でも東京ケーキってなんだろう・・・。
   天化の指差す先を目で追うと、丸いカステラのようなものが沢山積まれた
   ケースがある。あれが、東京ケーキ????
   ともかくも、砂糖のまぶされたカステラみたいだ。

   丁重に断ると、目に付いた、フラッペを指差した。
   「アレが、いいな。」
   暑さに耐え切れずに、選んでみたが、できるだけ、甘くないやつで。
   毒々しいまでの青いブルーハワイ。
   目に痛い緑色のメロン。
   「いちごが王道さ。」
   横から口を出す、天化の言葉をよそに、私はレモンを指差す。
   「えー、いちごじゃないさ〜。」
   天化を見ると、既にチョコバナナは口の中に収まってしまったようだ。
   「じゃ、いちごも。」
   笑いながら屋台の親父に追加で注文する。
   「はい。」
   「いいの?」
   おなか壊さないようにね、と釘を刺すのを忘れずに。

   私と天化は、フラッペを銘々に持つと、並んで花火が出るのを待った。
   「俺っち、お祭り大好きさ!花火も見られるし!!」
   あれ?屋台がメインじゃないの?と言うと、コツン、と小突かれた。
   「うるさいっさ。」
   甘い物たくさんあって、天化には天国だよね。
   「もー、そんな事ばっかり言って!」
   ぽかぽかと、殴る振りをされる。本気じゃないのはわかるけど。
   「ああ、もう、始るさ!花火。」
   天化は虚空を指差す。
   星が、落ちそうなほどに、満天の空に瞬いていた。

   ドンッ、という音とともに、色取り取りの花火が、空に模様を描く。
   私は、耳を押さえながら、首を上に向けた。
   ふと、指先に、人肌を感じ、ビックリして横を振り向いた。
   天化が、横を向きながら、手を握ってきている。
   「て、天化?」
   「しーっ。」
   天化はもう一方の指先で、口を押さえた。
   周りは皆、上を向いて、二人のことなど気づかない。
   思い切って、天化の手をゆっくりと握り返す。
   彼の体温を確かめるように。
   もう片方の手に握っているフラッペの入れ物が、露を帯びている。
   この、暑さに、氷も溶けてしまっている。

   「
   天化の呟きが、そっと私の耳に届いた。
   夏の暑さよりも、暑い言葉が、心に届く。
   フラッペの残りを流し込んで、くしゃりとコップを握り締める。
   そんなものでは、この熱は、収まらない。




  ドリーム小説天化とお祭りに行こう編。夏だし。
  ところで東京ケーキって、東京では何て言うのでしょうか?
  ていうか、どこにでもあるものなんでしょうか。謎。


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