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 桜の咲く頃


    あれは春。桜霞の中、一人の少年を見つけた。
   ふわふわと舞散る花の中。
   薄桃色にけぶる花の中で、彼の方もこちらを見て笑った。
   そのほっこりと笑う顔が、まるで桜の花のようで。
   何も言えないまま、ただ黙って俯いてしまった。
   それは始まりの季節。春の出来事。

   「今日からこの崑崙山に上山しただ。皆仲良くするように。」
   元始天尊様に紹介され、また少し俯いてしまう。
   ここは崑崙山。仙人としての才能がある、と見込まれた私は、まずは同じ年頃の子供達が
   集まり仙界について学ぶ学校のようなところに連れてこられた。
   下界ではかなり特異な人間として扱われてつらい思いもしてきたが、ここに来れば
   同じような人間は沢山いる。
   俯きながらも、ちらり、と視線を部屋の中に走らせる。
   彼が、いた。

   少し小首を傾げると、肩まで切りそろえられた黒髪がさらりと音を立てるように靡いた。
   深い緑色の瞳は好奇心でキラキラと輝いている。
   「席は、そうじゃの・・・太乙の隣が空いておるな。太乙、色々と教えてやってくれ。」
   「はい、元始天尊様。」
   太乙。太乙っていうんだ。私は心の中にその名を刻む。
   「よろしくね。」
   先ほど見かけた桜の花のような笑顔を目の前にして、暫し見惚れた。
   差し出された手にも気づかないほどに。
   「?」
   不信そうな彼の表情を見て、あわてて手を握り返す。
   おかしな奴だと思われはしなかっただろうか。
   ふと、見ると彼の机の上に、なにやら怪しげな物が乗っている。
   「それ、何?」
   それを聞くと、彼の顔がぱあっと華やいだ。
   ああ、また花がほころんでいる。そんなことを感じてしまう。
   「これ?これが気になるの?私が作ったんだ、よかったら君にあげるよ!」
   彼は心底うれしそうに言った。
   よほど自分の作ったものに目をとめてもらったのが、嬉しかったに違いない。
   そう、その時は思った。
   それが春の出来事。

   あれからずいぶんの月日が流れた。
   再び訪れた春。私は太乙にもらった発明品を眺めていた。
   あの日からどうしてもわからなかったことがある。
   一体これは何なのだろう。
   特におかしなものでもないが、使えるものというわけでもない。
   何だかよくわからないのだ。
   眉間に皺を寄せながら考えていると、太乙が遊びに来た。
   「〜。いるの〜。」
   もはや勝手知ったる洞府とばかりに、ずかずかと入ってくる。
   そして彼は私の眺めているものを見つけると、恥ずかしそうに言った。
   「それ・・・まだ持ってたんだ・・・。」
   彼の頬が桜色に染まる。
   私はここぞとばかりに彼に問いただした。
   「これって・・・いったい何なの?」
   彼はえへへ、と笑うと、こう答えた。
   「それはね、自分の思った人と仲良くなれる道具、だよ。」
   意外そうな顔で見つめると、彼は照れながら続けた。
   「ちょうど、こんな桜の季節だったな。桜の木の下で、ある子を見つけて。
    仲良くなりたいな〜、なんて思ってて。話をするきっかけにならないかな〜、なんて
    考えながら、それ作ったんだ。そしたらさ、その子隣の席になってさ。
    あとは君も知ってのとおりだよ!」
   桜色の頬がだんだんと薔薇色に染まっていく。
   太乙の告白に自分の方も照れくさくて、思わず俯いてしまう。
   彼が気が付いていたなんて。自分と仲良くなりたいなんて考えていたなんて。
   気恥ずかしくて、顔も上げられなかったが、ぎゅっと発明品を握り締める。
   「大切にする。」
   「えっ?」
   声が小さすぎたのか、太乙が聞き返してくる。
   「大事にする。」
   「・・・うん、ありがと、。」
   外の桜も霞むほど、満面の笑みを浮かべた太乙にまた暫し見惚れる。
   そんな春の出来事。



  ドリーム小説太乙バージョン。太乙と机を並べてみたくありませんかっ!!
  そうして教科書忘れたふりして見せてもらうのだ〜。(←マイドリーム)


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