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 年下のオトコノコ


   「待ってくださいよ!!!!」
   テニスコートに向かう途中、後ろから大声で止められる。
   ああ、また、そんなに大声出して。
   まだ、校舎からそんなにも離れてないところで、そんな声を出されたら、
   噂になるのに。また、1年生たぶらかして、って。
   自分にはそんなつもりは全くない。ないったら、ない。
   第一、こんな、年下で、自分よりも、背の低い1年生なんて。
   範疇外だ。

   でも、この1年生、鳳長太郎は、何故か自分に懐いてくる。
   まるで、子犬のように、しっぽを振って。
   「っ。」
   うわ、考え事してたら、追いつかれた。
   まるで、長太郎の事、待ってたみたいに。
   いや、断じて違う!!待ってなんかいない!!
   「窓から見てたら、・・・先輩がコートの方に向かうのが見えたから、
   慌てて出てきたんですよ!」
   そんな恥ずかしい事大声で言わなくたっていいのに。
   何、見えたから追いかけてきた?何のために?
   「一緒にコートに行きましょうよ。」
   にこにこと、実に嬉しそうに笑う。
   そんなに自分とコートに行くのが嬉しいのかな・・・。
   校舎からコートまで、ほんのちょっとだけの間、二人でいられるのが。
   いけない、いけない。なに考えてるんだろう。
   思い切り首を振る。
   そんなこと、この1年生が思っているわけないのに。

   1年坊主は、嬉しそうに笑いながら、ちょこちょこと後ろを付いてくる。
   「・・・先輩のこの前の試合見ました!!すごかったですよね!!」
   手放しで褒められて、嬉しくない人っているんだろうか。
   「そっ、そっかな。」
   ちょっとだけ気分がよくなる。いや、前から悪くはなかったけれど。
   「・・・先輩って、いつからテニス始めたんですか?
    俺、今からやって、・・・先輩みたいになれるかなー。」
   あんまりにも褒め称えるんで、ついうっかりと。
   「いい。」
   「え。」
   「『』で、いい。」
   長太郎は、それを聞くと嬉しそうにまた笑う。
   顔に花が咲いたみたいに、ぱあっと。
   いちいち言い直さなくても、いいのに。
   別に自分は『先輩』呼ばわりされなくても、気にしないんだけれど。
   うちのガッコ意外とそういうところにウルサイから。

   「た・だ・し。二人の時だけだけど。」
   念のために釘を刺しておく。
   先輩後輩にウルサイ同級生が聞いたら、何言われるかわからないし。
   と、言ってから自分のミスに気がついた。
   何ってこと言ったんだ、自分!二人の時って!!!
   また、二人でテニスコートに行こうとか、そんな、誘ってるわけじゃないっ!!
   照れくさくて、思わず歩みを速めてしまう。
   「ま、待ってくださいってば!!!」
   ああ、ほら、やっぱり誤解してるよ、きっと。
   嬉しそうにしっぽを振ってついてくるのが目に見えるようで、後ろが振り返れない。

   「、ちょっと、待ってください!!」
   ぐいっと肩をつかまれる。え、なんで。
   「止まって、そのままで待っててください。」
   そう言うと、長太郎は、目の前でしゃがみこんだ。
   「ほら、靴紐、ほどけてますよ。」
   そんなことまでしなくていいのに、甲斐甲斐しくも靴紐を縛りだす。
   自分でやるから、と言おうとして、言葉が止まる。
   長太郎って、こんな、ハンサムだったっけ?
   整った眉、節目がちに落とした視線は、真剣で。
   いや、靴紐結ぶのに、そんなに真剣にならなくてもいいんだけれど。
   マメだし。先輩からも信頼厚いし。後輩にも人気があるし。
   いつだって、真剣だから。

   「長太郎って、長男?」
   ふとした疑問。面倒見がいいし、名前からしてそうだ、と思ったから口にした
   だけなのに。
   何故か靴紐を結ぶ手が止まる。
   見ると、顔を真っ赤にして。うわ、耳まで赤いよ。
   「え?ど、どした?何か・・・。」
   自分が何かおかしなことを言ってしまったのか、不安になる。
   でも、長太郎は、真っ赤になりながら、視線を落として、照れたようにこう言った。
   「い、いえ、下の名前で呼ばれたの、初めてかな、って・・・。」
   呼んだ事なかったっけ。
   そんな下の名前呼ばれたくらいで、真っ赤になっちゃうなんて、
   どんなに大人っぽく見えても、どんなに信頼されていても、
   やっぱり「年下の男の子」だな、なんて、思ってしまう。
   ああ、それを可愛いなんて、思ってないから、絶対に。

   照れ隠しに、しゃがむ長太郎の頭をぺしっと叩いて。
   「コートまで、駆け足!!」
   ちょっとだけ、「年上」ぶってみる。
   油断したら、抜かれてしまいそうだから。
   テニスも、身長も。この心の中に芽生えた新しい気持ちも。





  鳳長太郎編。1年生の頃のちょたろーって、意外と小さかったりして。
  大きくても、小さくても、わんこだとは思いますが・・・。
  下僕のおやくそく「くつひもを結ぶ」です(笑)


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