〓BACK〓


 冷たい、嘘


   そぼ降る雪の中で。
   夜の公園に一人佇む。
   誰にも行き先を告げず。
   ただ、一人で。

   「遅せえぞ…。」
   そう、俺は一人呟く。
   あたりは、白く染まり、雪の降る音すら聞こえてきそうなくらいの静寂。
   こんな雪の降る公園にいるのは、自分くらいのもの。
   さっきまで取り巻きの連中が一緒だった。
   俺の周りには、いつでも人が絶えない。
   人気者は辛い、といいたいところだが。
   おかげで、せっかくに街で会ったって言うのに、声もかけられなかった。
   多分、誰もいなくても、声をかけなかっただろうとは思う。
   俺の目に飛び込んできたのは、なんでもない光景。
   が、と一緒に歩く、その姿。

   二人が付き合ってる、と聞いたのはいつだったか。
   実際、目の当たりにしないと、実感しないってのは、間抜けな話だ。
   目に焼きついてはなれない、二人の姿。
   こんなに、胸がいたむまで、自分の気持ちに気がつかない、ってのは。
   間抜けな話だ。

   「遅せえぞ…。」
   遅い、と言っても、別に時間を決めて、待ち合わせをしているわけではない。
   「すぐ、来い。」と、メールで一行。
   俺が、すぐに、と言ったら、大至急なんだ。
   何処に、とはあえて書かずに。
   俺がどの道を通って帰るのか。さっき見かけたところから辿っていけば
   この公園はすぐにわかるはず。
   俺がお前を見つけるんじゃない。お前が俺を見つけるんだ。
   が俺を探し出すのを、ただ、黙って待ちつづける。
   来るはずのない人物を。

   きしり、と、背後から、静寂の中に雪を踏み固めて歩く音がした。
   俺は、緩む頬を抑えながら、精一杯の声で、呼びかける。
   「遅せえぞ!。」
   まさか、来るとは思わなかった。
   を置いて、俺のところに。
   だから、コイツは馬鹿なんだ。
   だから、コイツが好きなんだ。

   振り返らない俺に向かって、は声をかける。
   いきなり呼び出すなんて、何の用か、と。
   不満そうな顔が見たくて、振り返る。
   ただ、家の近くまで来たから、使いっ走りでもやらせてやろうかと思って。
   そう、言って、頬の端を吊り上げて笑う。
   それが、一番、の嫌いな仕草だと知っていて。
   そう言いながら、振り返ってを見ると。
   なんでだよ。なんで、そんなに悲しそうな顔してんだよ。

   嘘だよ、嘘、嘘。
   本当は、さっき会った時、お前、何か言いたげだったから。
   気になってさ。そう、それだけ。
   それだけ。
   それを聞くと、は、俺の頬に手を当てた。
   待つなら、店の中でもいればいいのに、と。
   馬鹿だな。それだと、頬が赤いのに理由がつけられねえじゃねえか。
   頬が濡れてるのに、理由がつけられねえじゃねえか。
   暖かな手に触れられて、一瞬、心も解けそうになる。

   なんで、さっき、あんなに悲しげな顔してたんだ。
   そう、思い切って、聞いてみた。
   俺の気持ちがバレてるとか。そういうことではないと思う。
   は、少し、困ったような顔で。
   俺が一人でいるのがなんだか寂しく見えたから。
   いつも誰かが一緒にいるのがあたりまえで。
   近寄る事も出来ない、そんなこともあったから。
   そう言うと、頬から手を離す。
   「バーカ、そんなわけ、あるか。」
   寂しいなんて。そんなわけ。
   これも、嘘。

   寂しいんじゃなくて、寒かったんだ。
   そう言うと、は、俺の首に、マフラーを巻きつけた。
   頼むから、優しくなんて、しないでくれ。
   「バーカ、そんなことは、にしてやりゃいいんだよ。」
   そう言うと、は少し照れたように、笑う。
   とっとと、帰れ、馬鹿野郎。
   お前を待つ人のところへ。

   俺にも早く家に帰れ、風邪をひくから。
   そう、は言って、携帯を取り出す。
   俺ではない、誰かの呼び出し。
   俺はいいんだよ、雪が見たくて、寄り道してたんだから。
   そう言うと、追い立てるように、手を振った。
   振り返りもしない、背中を見ながら。
   いつから、俺は、こんなに嘘を言うようになったんだろう。
   多分、本当のことを言ったら困るから。
   を困らせるだけだから。


   本当は、ただ、会いたかった。
   そう言ったら、お前、どんな顔をするのかな。


   冷たい嘘が、降り積もる。
   ただ、一人、その中に佇む。




  ドリーム小説跡部景吾編。アンケートにあった、「片想い」を書いてみました。
  2004.1.18

〓BACK〓