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 ただ一度だけ。


   「愛してるよ、。」

   愛している、は愛の告白。
   そんなあたりまえのことが判らなくなるほどに、非日常的な使い方をしている
   始業前の10分間。
   教室の中は、劇的な告白など聞こえないかのようにざわめき。
   日常の中の、非日常。
   俺は、の机に手を置き、正面から見据えながら、もう一度言った。
   「愛してるよ、。」

   「何、またからかってんの〜?」
   耳ざとい生徒の声がひときわ大きく上がる。
   煩い、女生徒。
   人の劇的な告白を邪魔すんじゃねえ。
   女生徒の嬌声に、は、少し恥ずかしそうに目を伏せる。
   ダメだよ、俺のこと見ないと。

   昔っから、人にお願いするには。
   まっすぐ目を見て。
   ココロの底から祈るように。
   そう、教わってきたから。
   そう、実践してきただけなのに。

   いつの間にか、俺についてたあだ名は「詐欺師」

   なんでだろう。
   子供の頃は、いつも素直に生きてきたつもり。
   「一生のお願い」なんて子供の頃には何度も使う言葉。
   願いを叶えてもらうためには、努力が必要。
   好意を見せれば、相手だって悪い気はしないし。
   それで、誰を傷つけることもない。
   上手く生きるには、多少の演技が必要だって。

   なのに。
   それから、ちょっとだけ、年を重ねただけなのに。
   見つめただけで、誤解する女がいたり。
   俺の言葉をまっすぐに捕らえないヤツがいたり。

   いつの間にか、俺が口にする言葉は嘘になる。

   「愛してるよ、。」
   困ったように目を伏せて。
   思ったよりも長い睫が俺の瞳との接点を遮断する。
   それがどうしようもなく俺の心を刺激する。
   もう少しだけ、見ていたいのに。

   「何?また『一生のお願い』〜?いいかげんに、に頼るのやめたら?」
   煩い、外野。
   そのたった一言で、また俺の言葉は嘘になる。
   そのたった一言で、はほっとしたような顔で、
   「今日は、何?」と。
   それだけ。

   ああ、そんなにあからさまに安心したような顔するなよ。
   俺が傷ついているのわかってる?
   お前は自分が傷つくのは、嫌なんだ。
   本当は俺のこと好きだとしても。
   騙されるのが嫌なんだろ?
   俺の言葉はすべて嘘だと思ってるんだろ?
   そうして、俺は、またひとつ嘘をつく。
   お前が傷ついたりしないよう。

   「愛してるから。英語の辞書貸しちくれ。」

   は笑いながら、辞書を差し出して。
   劇的な告白は、またしても冗談で終わってしまう。

   ああ、ピーター。いまならお前の気持ちがよくわかる。
   狼は、最初は本当に来たんだろ?
   何度も口にして、誰も信じなくなったんだろ?

   だったら、神様。
   一生に一度だけの願いだ。

   愛している、は愛の言葉。
   だから。
   愛している、と言ったら、「愛している」と、返して欲しい。
   それが、ただ一度だけの、本当の願い。




  ドリーム小説仁王雅治編。仁王の話し方がいまいち違う気がしますが。
  2004.5.23

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