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 真夏の果実


   初夏の日差しが眩しい、6月の放課後。
   アスファルトの照り返しが、ちりちりと制服の温度を上げている。
   隣を歩くは涼しげな顔をしているけれど。
   これから家までの道のりを歩いて帰るのは辛すぎる。
   手の甲で、太陽を遮りながら二人で歩いていると、は突然、
   「家に寄って涼んでいかないか?」と言ってくれた。
   さすが、青学の母。
   自分の心が読めるようだ。
   一も二もなく賛成し、そのままお邪魔するのは気が引けるので、
   菓子なり、飲み物なりを買い込んでいくことにした。

   すっ、と涼しげな風が、店に入ったとたんに自分に浴びせられる。
   スーパーの冷気は、品物を傷めないためか、効きすぎている気がする。
   買い物、といってスーパーを選ぶあたりが、彼らしいというか。
   「少し涼しくなったな。」
   いままでも暑いそぶりは見せなかったのだけれど。
   買い物籠を手にして、目当てのコーナーに向かおうと、足を踏み出す。
   と、入り口近くの青果コーナーで、目を引くポップが立っていた。

   「大石プラム。」
   思わず口に出して読んでしまう。
   好きな人の名前が付いているものは、なんだか気恥ずかしい。
   知らず知らずのうちに、笑みがこぼれてくる。
   甘いのかな。
   甘いのだろうな。
   手にとって赤い果実を見つめる。

   「食べたいの?」
   買い物籠を手にして先を歩いていたはずのは、自分が後をついて来ないことに
   気がついて、戻ってきたらしい。
   こくりと頷くと、しょうがないな、と言いたげに買い物籠を差し出す。
   ほら、やっぱり甘い。

   つぶれないように、買い物籠にそっと置く。
   既にいくつかの菓子が入っていたが、らしい選択に少し笑ってしまった。
   「この菓子嫌いだった?」
   違う。ものすごく好きだから。いつもそればかり選んでしまうから。
   それを知っていて選んでくれるのことが大好きなのが嬉しくて。
   やっぱり甘い。そう思いながら、また笑う。

   「つぶれるといけないから。」とそう言って、お茶の入ったペットボトルと、
   プラムを別々のレジ袋に入れて。
   「はい、はこっち。」とプラムの入った袋を渡される。
   買い物の荷物は半分こ。何事も平等に、という彼らしい。
   だけれども、当然のように重い方を持ってくれる。
   「はプラム好きだものな。」
   なんていって、絶対ペットボトルなんて重たいものは持たせない。
   彼の名前のついた果物を、つぶさないように、そっと胸に抱える。
   よほどに好きな果物だと思われたのか、くすり、とが笑った。

   彼の家に着き楽しいひとときを過ごし、ようやく辺りが涼しくなった頃、
   よく冷えた果実をお盆に載せて、彼が台所から部屋へと戻ってきた。
   「お待たせ。ご要望の品だよ。」
   きらきらとルビーのような輝きを持った赤い果実よりも、輝いた笑顔で。
   甘そうな果実は、ほどよく熟れていて、蕩けそうだ。

   勧められるまま、手に取って、ひとくち。
   「甘い。」
   思ったとおりの甘さに、思わず声が出る。
   彼は自分の顔をじっとを見て、ひとつ手に取った。
   「のほっぺたみたいだな。」
   そう呟いて唇を寄せる。
   悪戯そうに微笑みながら。
   とたんに、自分の顔が赤くなるのがわかる。
   まるで、の手の中のプラムのように。

   この果実。ただ甘いだけではないかもしれない。

   




  ドリーム小説大石秀一郎編。サザンの歌とは関係のないタイトルです;
  2004.7.3

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