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 不自然な風景


   放課後、部活動に行こうと廊下を歩いていると、横並びに並ぶ教室の一つから
   歓声が上がった。
   「うわー、不二君の撮ったの凄い!!」
   その名前を聞いて、思わず足を止める。
   自分の好きな人が噂の中心であったなら、それは多分あたりまえのことだと思う。
   開いている教室の扉から覗き込むと、写真部を中心に円陣になって何かを見ている。
   その中に、知り合いの顔を見つけ、これ幸いと自分も教室の中に入っていった。

   写真部の生徒に、何をしているのかと問うと、どうやら学校の生徒が
   写した写真を集めて、展示会のようなものを開くらしい。
   写真部ではないとはいえ、写真が趣味である『不二周助』の名前は校内で
   知らないものはないだろう。
   もちろん、それは写真の腕にとどまらず、彼の風貌、人となりすべてにおいて、
   校内で知らないものはないと思われるが。
   写真部の女子部員が写真を仕分けながら指示を出していた。
   「不二先輩が撮った写真は、こっち。」
   「見せて…くれる?」
   何故か、別の写真部部員はの撮った写真を見せるのをためらっていたようだった。
   彼は自分と同級で、と自分が仲がいいことも知っているはず。
   何か自分が見てまずいものでも写っているのだろうか。
   自分に写真を渡してくれた女子部員は何も言っていなかったけれど。

   一枚、一枚と、めくっていく。
   級友が話をしている風景、部活動中の生徒、校舎と教室が写った風景写真。
   普通の光景ではあるが、人の目を惹きつける写真であった。
   けれど。
   その中のどれにも、自分は写っていなかった。
   おそらく、さっきの女子部員は気づいていなかった。
   その写真は、自分にとって、不自然に切り取られたような風景だった。
   たとえば、教室の右端に、自分の座っている場所があるとして。
   わざと左端に寄せられて撮った写真。
   部活動の中でも、自分だけが外されたような風景。
   おそらくは、自分や、自分のことを知っている人でなければ気がつかないような。
   ためらった写真部部員は気がついていたのだろう。

   がらり、と扉の開く音がして、話題の主が現れた。
   「?」
   そこにいるはずのない自分を見て、少し驚いたようだった。
   自分と、自分の手元の写真を見比べる。
   「ちょっと、いいかな、。」
   「?」
   はいきなり自分の手を掴むと、教室から引っ張り出して、
   校舎の中庭に連れ出した。

   「怒ってる?」
   「何故?」
   そう、怒る必要は全くない。
   なのに、
   「だって…の写ってる写真がないから。」
   やっぱり、わざとだったのか、と悲しくなる。
   偶然そうなっただけ、と言われたなら、自分は信じてしまうだろう。
   否、信じたいと思うだろう。
   彼が撮るのは、自分自信が好きだと思うものだけで。
   その中に自分がいないということは、彼にとっての自分の存在価値を
   見せられたようで。

   二人の間に、少しの時間が流れた。
   やがて、は重い口を開いた。
   「あるんだ。」
   「え?」
   自分を撮った写真がある、ということだと気づくのに、少し遅れる。
   は堰を切ったように、話し出した。
   「写真はあるんだ。だけど、の写真があるって言ったら、焼き増ししてくれだの、
    私服の写真が欲しいだの、五月蝿いったら!」
   温和ながこんなことを言うのは珍しい。
   つまり、煩わしいのが嫌いだということだろうか。
   「絶対わかってない。」
   さらに、溜息混じりに呟かれた。
   「、君自分がどれだけ人気があるか、もっと把握した方がいいよ?」

   「そんなに煩わしいのなら、自分を撮らなければ…。」
   呆れた口調のに、どうにか機嫌を直してもらえないかと、考えに考えた末に
   言った言葉だったけれど。
   「僕が撮りたいものをどうして撮っちゃダメなのさ。」
   少し頬を染めながら、ぽつりと呟く表情が全てを現していて。
   自分は撮りたいけれど、人には写真をあげたくないだなんて。
   それは全くの『独占欲』以外のなにものでもなく。

   不意に、が写真を撮るのか、わかった気がする。
   の見せる表情。怒った顔も、呆れた顔も、照れた顔も。
   普段見られない光景が、目の前で展開されては、それを撮っておきたい
   衝動に駆られるのも無理はない。

   両手の親指と人差し指で、四角いフレームを作る。
   「笑って。」
   フレーム越しのの表情が、驚きから笑顔に変わる。
   自分だけに向けられる、眩しい笑顔。

   この写真は、誰にも渡さない。
   自分だけの心に焼き付けて。




  ドリーム小説不二周助編。不二先輩は独占欲の強い人だと思います。
  2004.9.11

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