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 ロックン★オムレツ


   テストも終って、部活も休み。明日の休日が待ち遠しい、そんな雰囲気の教室。
   クラスのみんなも、明日の休日の予定を話し合ったり、テストの結果を忘れようと
   逃避しつつも答えあわせをしてみたり。
   これから家に帰ろうかと鞄を持ち上げた瞬間、明るい髪の色が目の前に
   飛び込んできた。
   「っv今日、これから、家に来ない?」
   髪の色と同じ、明るい声。その声に、心臓が音を立てているのがわかる。
   彼―菊丸英二は仲の良い友人である。
   いくら、自分が特別な感情を持っていても、彼にはいまいち伝わっていない節がある。
   彼は、男女問わず沢山の友人がいたし、人気者の彼にそれ以上を望むのはおこがましい。
   であるからして、あくまでも「仲の良い友人」なのである。
   もちろん、彼の家にも行った事はある。
   が、基本的に彼の家は大家族で。彼自身の部屋もお兄さんと一緒の部屋で。
   自然と自分の家に遊びに来る事が多くなっていた。
   なので、突然のお誘いにはびっくりする。

   「ど、どうしたの?急に?」
   にっこりと、顔中を笑顔にして、彼は答えてくれる。
   「あのさー。テスト前に、、ヤマかけてくれたっしょ?それが的中っ!!
    もー、これは、昼御飯でも奢らないと気がすまないっ!!ってワケ。」
   目の前で片目を瞑ってブイサイン。
   そういえば、テスト前に一緒に勉強したんだった。
   気分屋の彼を勉強に集中させるのは大変だけれども、一緒にいる時間は
   たとえ、勉強であっても、楽しい。それが役に立ったと言われるなら、
   こんなに嬉しそうな顔されるんだったら、いくらでも、と思いながら。
   でも、奢るって、いいのかな。
   ちらり、と彼の方を見ると、満面の笑みを浮かべて、ぐっと顔を近づける。
   その行動にまた心臓がひっくり返りそうになりながら。
   そっと耳打ちされる言葉に、さらに呼吸困難に陥るとは思いもよらず。
   「今日さ、家に誰もいないんだ。だから、遊びに来て来てvv」
   え。
   また、心臓が、音を奏でる。それはもう、8ビートのリズムで。
   くるりと猫のように背を向けた彼の背中に、そのリズムは聞こえてしまわないだろうか。

   「たっだいまーっと、って、誰もいないんだっけ。」
   「お邪魔します・・・。」
   結局、彼の言葉を断る事なんて出来ない。道すがら、普通に会話していても、なんだか
   胸が爆発しそうで。
   勢いよく開けられた扉の向こうから聞こえてくるはずの声も、今日は全くしない。
   彼の家ではないよう。
   「さ、入って入ってv」
   楽しそうに靴を脱ぎ飛ばす彼のスニーカーを、自分の靴と並べる。
   いつもは何足か置いてある靴も、自分と彼の靴しかなくって。
   ああ、本当に、二人きりなんだな、と改めて思ったりして。
   先に家に入った彼は、二階の自分の部屋に上がりながら、制服のボタンを
   外している。
   「先に、応接間に行っててくれる?」
   階段の踊り場から、声を掛けられて。
   せめて、部屋に入ってから服を脱いでくれないだろうか。目のやり場に、困る。

   応接間のソファに居心地悪く座っていると、彼が二階から降りてくる。
   片手にエプロンを掴んで。って、エプロン?
   「今日は〜、に〜、俺のトクベツ料理をごちそうしたげるねv」
   慣れた手つきで後ろを向いて、エプロンをしていく。縦結びになってるけどね。
   ソファから立ち上がって、後ろのリボンを直そうと、手を伸ばす。
   「にゃ?」
   しっぽをつかまれた子猫のように、びっくりした顔で、後ろを向いて。
   いきなり、顔をこっちに向けられると、困る。
   「あ・・・エプロンのリボン、結びなおそうかと・・・。」
   「ありがとvいっつも後ろを見ててくれる人がいるからさ〜。俺って前しか見てないの。」
   そう、かもしれない。真っ直ぐに前だけしか、見てない、ね。
   台所にぼーっと立って、彼の料理姿を見つめてしまう。
   慣れた手つきで、卵を割って。実に慣れた手つきで。フライパンを返す。
   鼻唄に混じって、規則正しい包丁のリズムが聞こえる。
   困るけど、時々は、後ろも見て欲しい。
   彼を見ている人がいるってことに、気づいて欲しい、んだけども。

   「ほいっ、おまたへ。」
   ぽん、っとチキンライスが乗った皿に、黄色いカタマリがのせられる。
   オムレツ?
   「これはね〜、こうするのさっ。」
   黄色い卵のカタマリを、半分に割ると、ふわっと、チキンライスに黄色い幕が
   降りていく。
   「で〜、これからが、仕上げ。」
   冷蔵庫から取り出したケチャップで、名前を入れる。
   「これこれ、これが大事。」
   『エージ』と『
   黄色い幕の上に、名前が刻まれる。妙に照れくさいんだけど。
   「はいっ!じゃ、これ!!」
   『』と書かれたオムライスの皿を渡される。
   ふわっと鼻腔をくすぐるいい匂いがして、自分が空腹である事に気がついた。
   いままではなんだか、緊張してたんだけども。

   応接間のテーブルの上に、皿を載せて、二人で手を合わせて、いただきます。
   ひとくち、口に入れようとして、彼の声に手が止まる。
   「ああああああああ!!!!!!!」
   「な、何?」
   なんだか悲痛な声。塩と砂糖間違えた、とか?
   作っている最中は、そんな感じには見えなかったけど。
   でも、彼は悲しそうに肩を落として、こう言った。
   「こっち、ぐりんぴーす沢山入ってる〜!!」
   「そんなことを言っても、作ったのは自分じゃ・・・。」
   「ちょっとだけ、入ってるならいーの。でも、沢山は、や。」
   じーーーーーーっと見つめる視線。これは・・・。
   「ね、、換えっこしようっv」
   ダメ、ダメ、ダメ。自分は食べてないけど、そっちのは、口にしたでショ?
   第一、そっちのは、名前が。

   「ねーねーねー。おーねーがーいっv」
   困る。そんな上目遣いで見られたら、困る。
   今日はなんだか困ってばかりだ、と考えていたら。
   「隙ありっ!!!」
   あ、取られた。
   「へへへ、いっただきまーすっ!!」
   目の前に『エージ』と書かれた皿が代わりに置かれる。
   うわ、ちょっと待って。
   『エージ』って、名前の入ったオムライス、食べちゃうよ?
   いいの?

   名前は単なる記号にすぎないけれど、でも。
   好きな人の名前はトクベツ。
   大事に、崩さないように、オムライスにスプーンを入れる。
   あれ?だけど、そんなにグリーンピースって入ってないような気が。
   ちらり、と彼の方を見ると、嬉しそうにオムライスを食べている。
   自分の、『』って名前の入ったオムライスを。
   何故か名前のところを崩さないようにしながら。
   思わず笑みがこぼれる。
   最初から、『お互いの名前を書かない?』って言えばよかったのかも。

   そんなことを考えながら、オムライスを口にする。
   とろとろの卵と、チキンライスが溶け合って、ものすごく美味しい。
   意外そうな顔をしていたのがわかったのか、彼はふふふ、と笑った。
   「これはね〜、ミルクとお砂糖をケチらないのが秘訣。あまくって、ふあふあな
    卵料理の基本。でもね、お砂糖が多すぎると、焦げちゃうから気をつけないと
    ダメなんだよ〜。」
   「へえ。」
   思わず感心してしまう。
   彼がそんなにも料理に詳しいとは思ってもみなかったので。
   「うん、美味しい。」
   勢いよく食べる事で、美味しい事をアピール。
   本当に、美味しいんだけども。
   「えへへ〜、じゃ、お嫁さんに、してくれる?」
   ごほっ。
   咽たのは、勢いよく食べ過ぎたせいでは、決して無い。
   いつもはふざけてる彼の表情が、一瞬だけ、本気の顔だった気がするから。
   「え・・・。」
   何て言っていいのか、答えに困っていると、彼はぺろりと舌を出した。
   「なんてねー。」
   やっぱり冗談だったの、か。
   彼は、手を頭の上で組んで、へへっ、と笑った。
   「があんまり美味しそうに食べるから〜。毎日、そんな顔、見たくなるじゃん。」
   自分だって。こんなに幸せそうな顔されたら、毎日だって、見たい。

   「ほっぺに、ケチャップついてる。」
   「え?本当?」
   頬に手を当てると、悪戯っぽく笑って、彼が近づいてきた。
   「こっち。」
   ぺろりと赤い舌を出して。猫みたいだな、と思っていたら。
   手を当てた逆の頬をぺろりと舐められた。
   また、心臓が、バクハツしそう。

   「、大好きだよv」

   耳元で告げられた言葉に、溶けそうになる。
   まるで、口の中で蕩けた卵のように。




  ドリーム小説菊丸英二編。手料理食べてみたい〜。おむらいす〜。


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