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 あしあと


   「もう、今年も終わりなんだ〜。」
   隣で、彼、菊丸英二が一言呟く。
   がさがさと、学期末まで溜めた大荷物を持ちながら、二人で、帰り道を歩く。
   彼は、教室に荷物を溜め込む癖があるらしく、一人では持ちきれないその量に
   思わず「手伝う」ことを申し出ていた。
   途中まで一緒にいたテニス部の連中も、道々別れて二人だけになっていた。
   薄っすらと白く積もった雪に足を取られながら、今年の初め、中学に入学したばかりの頃を
   思い出す。
   思えばこの1年、色々な事があった。
   目を閉じると、つい昨日のコトのように思えるのに。
   桜舞う中の入学式。中学に入ってすぐに入ったテニス部。
   来る日も来る日も、テニスの練習に明け暮れて。
   簡単ではないレギュラーの座を手に入れるために。
   毎日毎日、練習に明け暮れて。
   いつのまにか、テニス部の「菊丸英二」なる人物と仲良くなって。
   こんな、普通に一緒に帰る日が来るなんて、入学した時には思っていただろうか?

   「?」
   前を歩く彼が振り返る。
   ぼんやりしていて、置いていかれるところだった。
   せっかく隣を歩いているのに。
   「、遅いと置いてっちゃうよんv」
   くるくるっとした表情。転げそうに大きな瞳が笑うと瞼の奥に消える。
   わかってる。今年一番の出来事は、彼と出会ったこと。
   出会ってから、1年。
   いつのまにか、この笑顔に惹かれていて。
   見ているだけで幸せになるような笑顔。
   自分がそんな思いで見ているのが、わかっているのかいないのか。

   降り積もる雪に足跡をつけながら歩く。
   彼の歩いた足跡を、そのまま辿って歩いてみる。
   重なる、足跡。
   自分達の歴史も、こんな風に、重なり合っているといいのに。
   重なり合った、時間が、足跡のように残っていればいいのに。
   振り返ると、自分達が歩いてきた道は、雪が積もって足跡が消えていく。
   なんだか、切ない気持ちになる。
   消えないで。そう、言いたかった。

   「どしたん??」
   はっと、顔を上げる。
   彼が不思議そうな顔をして、こちらを向いている。
   「足跡が、消えていく、と、思って。」
   「へ?」
   「『足跡』って、自分が成し得た事に対していうことがあるけど。
    消えてしまったら、なんだかこの1年間あったことも消えていくような、
    そんな気がして・・・。」
   彼は、一瞬、自分の顔を見つめて。
   ぺたぺたと足音をさせながら、自分の横に戻ってくる。
   「悲しくなった?」
   彼は下から覗き込むように、心配そうに自分の顔を見た。
   いつになく、真剣な瞳で。
   そんな、顔で見つめられたら、泣きそうな気持ちになる。

   そんな彼は、にっ、と笑うと、視線を上げた。
   「消えちゃったら、また、跡を付ければイイじゃん!!」
   元気一杯に、両腕を回しながら。
   「前に進んでいく限り、足跡は付けられるよ!!」
   大きく、前進。彼の後ろに足跡が残る。
   雪で消されても、後から後から付けていく。
   「大丈夫。こんな雪なんかで、の大事な思い出は消せないよv」
   周り中、足跡だらけになった時、ようやく彼が振り返った。
   「とりあえず、俺達のことも、一歩前進してみない?」
   「?」
   足跡の真中で立ち尽くす自分に向かって、彼は自分自身を指差した。
   「エージ。」
   「え?」
   その言動がわからずに、聞き返してしまう。
   「名前で、呼んで。」
   くるくるとした大きな瞳で、まっすぐこちらを見てくる。
   その、勢いに思わず、口にしてしまう。

   「え・・・・エージ。」
   「うんっvっv」
   極上の笑顔で、名前を呼ばれてしまうと、妙に照れてしまう。
   自分の顔が赤くなるのがわかる。
   気づかれないように、顔を押さえて、精一杯抵抗してみる。
   「あの・・・やっぱり、名前で呼ぶのは・・・。」
   「えええええっ!!いいじゃんいいじゃん!!!!!」
   それから、名前を呼びながら、ずっと、彼は自分の周りに跡をつけていった。
   くるくると。くるくると。

   頬に当たる雪が、解けてしまいそうなくらい。
   足元の雪が、解けてしまいそうなくらい。
   今、自分の体が熱を持っているのがわかる。
   降り積もる雪が、地面に着く前に自分の周りで溶けてしまいそうだ。
   足跡も、消せなくなるくらいに。




  ドリーム小説菊丸英二編。そういえば、東京ってそんな雪積もらないんだっけか。ま、いっか。


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