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 仮面の告白


   「あのっ!手塚先輩!!好きですっ!!これ、貰ってくださいっ!!」
   なけなしの勇気を込めた告白。
   バレンタインには見慣れた光景。
   見たくはなかったけれど、見てしまったものは仕方ない。
   周りに聞こえるような大きな声で、辺りを憚る事もなく。
   眉を顰めて声を掛けられた相手は、足を止める。
   何も、廊下で告白しなくとも。
   多分、皆の見ている前でなら、あまり冷たく断られたりしないだろうと、
   そのどうみても入ったばかりの一年生のオンナノコは思ったんだろうケド。
   そんな打算的な事を考えているのなら、甘い。
   ああ、今日が何の日かなんて、当然知らないだろうその人は。
   当学校の生徒会長。テニス部部長。頭脳明晰、容姿端麗、品行方正。
   完全無欠の手塚国光、その人。
   そう、廊下なんかで愛の告白を容易にできる相手なんかではないのだ。

   彼は、一年生の子が差し出すピンク色に彩られた可愛らしい包装とリボンの
   包みを一瞥すると、
   「勉学に関係ない私物の持込は禁止だ。」
   にべもない。
   酷く傷ついた顔をした一年生の子は、そのまま駆け出してしまった。
   残ったのは、酷くいつもと変わらない顔をした、彼、一人。
   辺りにいた人たちは、気を使ってその場を足早に立ち去っていた。
   自分は、廊下の角に隠れるように立っていたのだけれども。
   「?」
   見つかってしまった。

   バツが悪いので、「たまたま目に入って、出にくかった」旨を伝える。
   言い訳に近いのだけれども、本当の事。
   「もてるんだ。」
   見つかる言葉もなくて、ありきたりの事を言ってしまう。
   「何がだ。」
   不機嫌そうに、彼は答えると、ぽつりと呟いた。
   「ああいうのは、困る・・・。」
   何が、困るんだろう。人前で、目立つ事をされたからだろうか。
   それとも、好きになられることすら、困るのだろうか。
   それならば、自分も、彼を困らせるのには十分な理由がある。
   これを言ったら、絶対に、困る。
   持っていたチョコレートが、手の中で溶けていくよう。

   「ところで、何か用事があったのではないのか?」
   めずらしく、鋭い事を言う。
   普段なら、ただ通りかかっただけだろう、くらいのことを思うはずなのに。
   言われなければ、その存在をなかったものにしようと思っていた、
   手の中の箱を、彼の目の前に突き出す。
   「ああ、これ。」
   綺麗に整えられた眉が、少し寄せられる。
   「私物の持込は・・・。」
   先ほどの一年生と同じ事を。
   その言葉が聞きたくなくて、遮るように続きの言葉を紡ぎだす。
   最初から、用意しておいた、その言葉を。

   「『家庭科の時間』に『作った』お菓子。『余分に作りすぎたから』。」
   持ち込んだものでもないし、あげるために作ったものでもない。
   それを明確にしておかないと、受け取ってもらう事なんて、できない。
   意外と甘いもの好きである彼は、少し困った顔をしたあと、受け取った。
   「あ、『量が少ない』から『一人で』食べて。」
   ダメ押しも忘れずに。
   ほらね、ちゃんと受け取ってもらえる方法なんて、いくらでも考えつくはず。
   あんな、皆が見ている前で、渡す、なんて。

   チガウ。

   バレンタインにチョコレートをあげるなんて、誰でもしていることだし。
   確実に受け取ってもらった方が、チョコレートだって、浮かばれる。

   チガウ、ソウジャナイ。

   頭の中で、おかしな声がする。
   自分の、心の、声。
   そうじゃない。チョコレートを受け取ってもらえればいいなんて。
   そんなことでは、ないはず。
   自分の方が、さっきの子よりも、よっぽど打算的だ。
   チョコレートを受け取ってもらうこと、が大切なんじゃない。
   好きだ、と伝えることが、大切、なのに。
   自分のしたことは。

   「?」
   ぽとり、と涙が床に落ちる。
   ダメだ、彼におかしいと思われる。
   止めようとしても、止まらない、涙。
   これじゃあ、いつまでも、伝わらない。
   好きだという気持ちは伝わらない。
   いくら仲良くなったとしても。それを言う事によって困らせたとしても。
   それを言う事によって、今の関係がダメになってしまったとしても。
   伝えるべきだった、大きな声で、好きだって。

   顔を上げると、彼が、いた。
   とっくに見放されて、目の前を去ってしまったかと思っていたのに。
   流れる涙に手を添えることもなく、黙ったままで、彼はそこに立っていた。
   「大丈夫だ。『一人で』食べる。」
   何が大丈夫なのか。
   ただ、その言葉で、なんとなく、安心できた。
   黙って、騙されてくれた、彼の暖かさに。
   来年は、ちゃんと言うから。
   猶予を与えてくれた、彼に。本当の気持ちを。





  ドリーム小説手塚国光編。チョコたくさんもらいそうだなあ・・・。


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