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 いつか王子様が


   いつか王子様が迎えに来る。
   そして自分を見つけてくれる。
   いつか、きっと。


   気がつくと、周りは暗闇で。
   どうやら台所にいるようだ。
   ああ、これは、夢なんだな、とすぐに気がつく。
   だって、どう見ても家の台所ではなかったし。
   つぎはぎだらけのスカートを履いて、台所の隅で泣いてるなんて。
   ・・・ありえない。絶対にありえない。
   夢だと思っている自分が、まるで外から眺めているように、自分の泣いている姿を
   見つめている。
   つまらない、三文芝居のようだ。
   しくしくと、自分は泣きやまない。
   いいかげんにして欲しい。
   自分はそんなに、弱くない。
   まるで、弱い自分を見せつけられているようで、嫌だ。

   「何を泣いてるんです、シンデレラ。」
   ああ、そういえば、このシチュエーションは、まさにシンデレラ。
   そう、思って声の方向に顔を向ける。
   そこに立っていた人を見て、凍りつく。
   もちろん、凍りついたのは、傍から見ている自分の方なのだけれど。
   スポットライトに照らされて。暗闇の中から人影が現れる。
   そこには、黒いマントに黒い服。キラキラした杖を持った魔法使いが・・・。
   いや、魔法使いの格好をした、あの人が。
   泣いている自分は、目の前の魔法使いに、涙で訴えた。
   「必殺技がないので、お城の庭球大会に出られないんです。」
   冷静すぎるぞ、自分。もっと驚け。
   というより、なんなんだ、その設定は。
   シンデレラじゃないでしょう、それは。
   一方の魔法使いも、冷静に答える。
   「そうですか。明鏡止水??何でも教えてあげますよ。
   にっこり。
   いつのまにか、外から見ている自分と泣いている自分が一緒になっている。
   目の前で、微笑まれて。
   スポットライトの中から、そっと手が差し伸べられた。
   「観・・・。」
   掴もうとした、その時。

   「何をやっているんです、
   目の前には、魔法使い、もとい、観月はじめ、その人が立っていた。
   腰に手を当てて、自分の方をじっと見ている。
   「練習中にうたた寝とは、いい度胸です。」
   くるり、と横を向き、コートに向かう。
   それは、彼の練習が厳しいから・・・とは言えずに、立ち上がって後を追う。
   なんで、あんな、夢を。

   わかってる、本当は。
   テニスが好きで。テニスがやりたくて。
   それでこの学校に来たのだ。
   テニスが出来ないってことは、台所の隅で泣きたくなるくらい、辛い。
   そのことが、わかってるから。
   来るべき大会に備えて、日が暮れるまで練習している。
   目の前の人物は、勝つことしか、頭にない。
   そう、本当のテニスを教えてくれた、彼のためにも。
   勝たなければ、ならない。

   「どうしても、勝ちたい。」
   思わず、口にしていたようだ。
   彼はそれを聞いて、にっこりと笑った。
   あの、夢の、魔法使いのように。
   「勝つためには、新しい技が必要ですね。明鏡止水?
    何でも教えてあげますよ。
   ああ、あれは、夢だったはずなのに。
   同じ声で、同じ顔で、目の前の人物は笑う。
   彼の周りだけ、スポットライトが当たったようで。
   目を離す事が、出来ない。

   だけど。

   結果は惨敗。
   うちの学校は勝ち進む事が出来なかった。
   ベンチの上で、うなだれる彼に、かけられる言葉は、なかった。
   ただ、黙って、目の前に立ちつくす。
   「どうしたんです、。負けた僕を笑いに来たんですか?」
   そんなことは、ない。
   だって、彼は、自分にテニスの楽しさを教えてくれた。
   だって、手を差し伸べてくれた。

   目の前の人に、黙って手を差し伸べる。
   夢の中で、してくれたように。
   彼は、不思議そうに見つめた後、ゆっくりと立ち上がる。
   「まだまだ、教える事が、ありそうですね。」
   そう、まだまだ教わる事はたくさんある。
   「行きますよ、。」
   少し癖のある髪が、風に舞う。

   いつか、王子様が、迎えに来たら。
   きっとこう言ってしまうだろう。
   「ごめんなさい。」って。
   貴方では、王子様では、ダメなんです。
   黙ってお城で待っているだけの王子様じゃ、ダメなんです。
   暗闇の中で、一人で泣いている時に、手を差し伸べてくれた、魔法使いがいいんです。
   この人が、いいんです。

   細い肩を見つめながら、そんな、おかしなことを考える、自分がおかしかった。
   「何を笑ってるんですか。」
   不機嫌そうな声が、前から聞こえてくる。
   自分勝手で、他人のことなんか考えないで、勝つことしか頭にないなんて言われてるけど。
   ちゃんと立ち止まって、後ろを振り向いてくれている。
   だから。
   この人が、自分を迎えに来てくれる、ただ一人の人。





  ドリーム小説観月はじめ編。むしろ、魔法使いで。
   ちなみに、明鏡止水はPS版ゲームのオリジナル主人公のライバルが使っていた技です。ルドルフだし。


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